森と街が循環する場をつくる
株式会社蘆田暢人建築設計事務所
建築家 蘆田 暢人

このプロジェクトは白紙の状態から始まりました。土地のみがあり、具体的な計画はありませんでした。長く住む地元に貢献できることがしたいという、クライアントの想いだけがありました。
そこから私たちの試行錯誤が始まったのです。さまざまな事業計画や建築のスタディを重ねるうちに、建築はいかにして生まれるかという問いに改めて辿り着きました。原初的な問いに立ち返ると、建築とは物の流通の中で芽吹き、人の集いの中で生を受けるものであるという思索に至りました。森林の面積が7割になる日本では、その流通とは里山や森から街への物の流れであると考えました。そこで、私たちはまず森に向かいました。
大阪の北摂地域の森林では、広葉樹を主体にした林業に取り組み始めていました。
森の取り組みを建築を通じて街に届けることで、森と街の間に新たな循環が生まれるのではないかと考えました。
広葉樹を建物の構造体にする。現代では皆無の木の使い方に改めて挑戦したい。
そこから私たちの建築的冒険が始まり、その冒険が進むにつれ、里の人が集まり、街の人が集まり始めました。
気づいたらここに人の集いが生まれ、モノづくりと並行してコミュニティづくりが始まりました。さらにはこのプロジェクトは国や自治体の支援をいただきました。
また、吹田市、能勢町、大阪府森林組合、事業者との間で木材利用推進協定も締結されました。いつの間か行政も巻き込んだプロジェクトに発展しています。
私はここに、小さいながらも新しい公共といえる場と空間が生まれているのではないかと感じています。
これが、建築の力なのか、集まる人々の力なのか、それともそれらの相乗効果として生まれたものなのか。
ひとときの試みはまだ始まったばかりです。
